投稿日:2026年7月31日

 「グラスルーツ・アカデミー」2025 in 奈良

9月の明日香村。なだらかな丘陵と古代の遺跡と集落が共存するこの土地で、「グラスルーツ・アカデミー2025」を開催しました。日常とは異なる環境の中で、参加者たちはそれぞれの実践や問いを持ち寄り、地域と向き合う対話の時間を過ごしました。 2025年は、東北を拠点に10年間継続してきた本プログラムを、初めて全国へと広げる挑戦となりました。新たな場所、新たな参加者、新たな対話が交差しながら、地域や世代の境界を越えた学びとつながりが生まれた4日間でした。 

概要 

日程 :2025年9月20日(金)〜 9月23日(火・祝) 
研修地:奈良県明日香村 
テーマ:「うちとそとを繋ぐコミュニケーション〜若者世代と描く公正な地域づくり〜」 
主催 :NPO法人ウィメンズアイ 
後援 :ロクシタンジャポン株式会社 
協力 :関西大学 人間健康学部 村川治彦 
参加者:・地域で活動する女性 13名 
     ・10〜20代の若者(1日目のみ参加)4名 
     ・地元参加者 2名 
     ・ロクシタンジャポン 3名 
     ・関西大学 1名 
託児の子ども:4名 
参加費:地域女性:3万円(3泊4日の宿泊費・食費、プログラム費、交流会費、託児費込)・応援枠あり。若者は無料。 
目的 :このプログラムは、各地で実践を行う参加者が、互いの実体験から学びあい、地域や世代の境界を超えたつながりを築くことを目的としています。対話を通じて自らの活動や信念への確信を深め、変化に柔軟に向き合う、「グラスルーツの変革者」として、地域社会を少しずつ変えていく力を育むことを目指しています。 

全体スケジュール 

9月20日(土)
  10:00〜:趣旨説明・自己紹介
  10:40〜:アイスブレイク 
  12:00〜:ランチ 
  13:00〜:ロクシタン・ジャポン中原奈都子さんによる活動についてのご紹介 
  13:30〜:Climate Fresk(気候変動教育ワークショップ) 
  16:40〜17:30:発信のための動画撮影ワーク 
9月21日(日)
  9:00〜18:00:つながりを取り戻すワーク 
9月22日(月) 
  9:00〜18:00:つながりを取り戻すワーク 
9月23日(火・祝) 
  9:00〜12:00:つながりを取り戻すワーク 
  14:00:プログラム終了 

会場とプログラムの背景 

会場となったのは、明日香村の自然に囲まれた関西大学セミナーハウスです。里山の風景が広がり、古墳や石造物が日常の風景に溶け込むこの土地は、都市とは違う、静かでゆったりとした時間の流れがあります。 
今年のプログラムが重視したのは、「若者 × 地域女性の対話」です。気候変動はすべての人に影響を及ぼしますが、その影響や負荷は決して平等ではありません。未来をより長く生きる若者と、社会構造や制度の変化の影響を受けやすい地域女性。それぞれの視点が重なり合うことで、より公正で持続可能な未来のあり方が見えてくると、私たちは考えました。柔軟な発想や問いを持つ若者と、生活の実感に根差した経験を持つ地域女性が、同じテーマについて語り合うことで、ひとりでは気づけなかった視点や選択肢が生まれていく──それこそが、今年のグラスルーツ・アカデミーの大きな価値となりました。 

参加者は、大阪・京都・奈良・東京・宮城・岩手・福島など、異なる地域で暮らすメンバーが集まりました。なかには早朝に出発し、新幹線や在来線を乗り継いで明日香村へ到着した参加者もいます。普段は交わることのない地域・世代・バックグラウンドをもつ人々が一つの場所に集い、4日間をともに過ごすという特別な時間が、ここから始まりました。 


1日目:若者×地域女性の合同ワーク 

1日目のメインプログラムは、気候変動の影響を体系的かつ視覚的に理解するカードワーク「クライメート・フリスク(Climate Frisk)」でした。 
ロクシタンジャポンでは、社員教育の一環として継続的にこの研修を実施しており、今回は同社でクライメート・フリスクのファシリテーターを務める伊豆井 豪(いずい ごう)さんを講師に迎えました。 
このワークでは、気候変動の基礎科学や主要なメカニズムを学びながら、ファシリテーターの進行のもと、参加者同士が議論しながら「私たちにはどのようなアクションが必要なのか」を考えていきます。 
カードには、 
「化石燃料」「CO₂排出量」「海氷の融解」「森林伐採」「水循環の変動」「海洋酸性化」などのキーワードが、写真や図、グラフとともに描かれています。専門知識がなくても直感的に理解しやすい構成で、初参加の若者や地域女性も自然と入り込んでいきました。 


まずは、基本的なカードを全員で確認しながら、横長のボード(台紙)に並べていく作業からスタートしました。 
視覚的な情報が多いカードを前に、参加者同士の「このカードはここでは?」「この現象は、こうつながるのでは?」という対話が生まれ、場の空気が徐々にあたたまっていきました。 

●第2ステップ:理解と対話が深まるフェーズ 


次に配られた、より複雑なカード群では、カード裏面の解説文を互いに読み上げながら内容を理解し、ボードに追加していきます。 
ここからは、縦・横・斜めと、カード同士のつながりが複層的になり、どこに置くかについて意見が分かれる場面も増えていきました。 
「これは“原因”なのか、それとも“結果”なのか?」 「この現象は、どこと関係しているのだろう?」 
参加者たちは立ち止まり、考え、意見を交わしながら、丁寧にカードを並べていきました。 
混乱が生じた箇所では、ファシリテーターが補足説明や問いかけを行い、理解を深めたうえで再度位置を検討していきました。 

●第3・第4ステップ:全体像を描く 


同じプロセスを繰り返しながら、最終的にすべてのカードがボードに並びました。 完了後は、カード同士の因果関係を矢印で結び、印象的だったポイントをイラストや言葉で自由に書き込んでいきます。 


最後にはファシリテーターから 
「タイトルもつけてみてくださいね」 
という声かけに、各グループが思い思いのタイトルを考え、ひとつの“作品”として完成させました。 

● “伝える力”を育てる動画撮影 


ワークの締めくくりには、「気候変動について、どう伝えれば“届く”のか?」をテーマに、一人ひとりが自分の言葉でメッセージを発信する動画を撮影しました。 
短い言葉でも、自分の声で伝えることで、 
「アクションの第一歩は、語ることから始まる」 
という実感が生まれました。 
毎日の小さな選択が、未来をつくっていくこと。 その一歩を、参加者みんなで確かめあい、表現した時間となりました。 

2〜4日目:行動につながる視点を育てる3日間

2日目:自分の内側にある声に触れ、つながりを回復する 
2日目は、日常のスピードからいったん離れ、まずは自分自身の感情や感覚に丁寧に向き合う時間でした。まず、自身の内面に向き合うワーク、そして、参加者同士で他者の経験や感情に触れ、互いを尊重し合う関係性が深まっていくワークを実施しました。 
言葉だけで理解するのではなく、体験を通じて「自分は何を大事にしているのか」「何に痛みや違和感を感じるのか」を確かめ、社会や他者と向き合うための土台を整えていきました。

 3日目:見方が変わると、行動の可能性も広がる 
3日目は、社会や課題の捉え方を“転換”していく日でした。大きな問題を前にすると「自分一人では何も変えられない」と感じがちですが、人や組織、自然環境などが相互に関係し合い、ひとつの変化が別の変化へとつながっていく「連鎖」のあり方について理解を深めるワークや、自分の行動や意思決定が将来に与える影響について考えるワークを行いました。 
参加者は、小さな行動が周囲に波紋のように広がり得ることを体感し、行動への心理的ハードルが下がる感覚を得ました。課題を「自分から遠いもの」ではなく、「自分の関わり方次第で変化を生み出せるもの」として捉え直していきました。 

4日目:People Who Careとして、次の一歩を言葉にする 
最終日は、カリフォルニア州バークレーにおける市民主体のコミュニティ実践事例を通して、移行期を支える行動(holding actions)、ガイア的構造(gaian structures)、意識の転換(shifts in consciousness)、SDGsに対する課題意識、自然や社会の再生を志向するregenerative(再生的)なアプローチをバークレー在住のファシリテーターが解説しました。 
声高に主張する“活動家”だけがアクティビストなのではなく、身近に起きている出来事を見て見ぬふりせず、関わろうとする人(People Who Care)もまた社会を変える担い手である、という視点を共有しました。未来世代の視点に立って今の選択を見つめ直す時間を過ごし、参加者はそれぞれ、自分の暮らしや活動の中で「何を大切にし、どんな一歩を踏み出すか」を具体的に描き、プログラムを締めくくりました。 
最後に、参加者同士で、今後のシステムのあり方や意識の転換について意見交換を行い、気づきを共有しました。また、今回のアカデミーの出会いとつながりを今後も活かしていきたいという参加者の主体的な提案により、早速SNSを活用したコミュニティが生まれました。 

Think Locally, Act Globally
菅野瑞穂
 (グラスルーツ・アカデミー東北アルムナイ、「つながりを取り戻すワーク」ファシリテーター講座修了生) 
東北3県で続いてきた女性たちの学びの場は、アカデミー10年の節目に奈良で開催され、地域を越えたつながりを育む豊かな時間となりました。日本のジェンダーギャップ指数115位という現状を踏まえ、社会や政治のあり方を語り合い、歴史や文化に根ざした小さな声に耳を澄ませる中で、自分自身の内なる真実を語ることの大切さを感じました。集い問い合うことが力となる「つながりを取り戻すワーク」のパワフルさを実感するとともに、草の根の活動を続けるグラスルーツ・アカデミーの広がるネットワークが、地域で活動する女性たちに安心と信頼をもたらし、エンパワーメントの土台になっていることを強く感じています。 

参加者の感想

● 誰かひとりの行動でも、つながりを作ることで社会に変化を与えることができると知れて自分の活動も無駄じゃないと感じることができました。 
● 私は「地球とつながりを取り戻す」ということの意味を深く実感しました。それは単に自然を大切にするということではなく、私も地球の一部であり、地球の“今”に生きていること、今、地球は痛みがあること、それを聴き、共にいようとすることなのだと感じました。 
「気候変動はジェンダー中立ではない」という現実を知り、社会の中にある不均衡や弱さがより大きく影響を受けることを知りました。 
そして何より心に残ったのは、「最大の危機は、痛みに心を閉ざしてしまうこと」ということばです。痛みを避けるのではなく、むしろそこからつながりを見出すことにこそ可能性があると感じました。 
● 今回の時間では受け取りきれないだろうほどの経験や思いに裏打ちされた、言葉の一つ一つ、ゆかさんのあり方が心に響きました。力強いメッセージやアクションを伝えてくださっているはずなのに、いつもどんなときでもあらゆる人の立場に配慮しながら、ペースも、言葉選びも、ワークのありかたも、ひとつひとつ丁寧に受け渡してくださる穏やかさに強さを感じました。 
● 人間活動からもたらされた一次産業(林業、畜産、農業)の影響によってわたしたちの生活を支え豊かにしてきたと同時に地球の破壊へとつながっていくプロセスはとても心が痛んだ。と同時にどこかで転換しなければいけないという時期がもう過ぎていて対処療法に過ぎない報道や対策ばかりが今のメディアにつながっていることをひしひしと感じた。 

講師からのコメント

● 齊藤 由香(さいとう ゆか) 
アクティビスト/翻訳家/通訳/ワークショップ・ファシリテーター 


今回のグラスルーツ・アカデミーでも、旺盛な好奇心、確かな観察力、しなやかな強さ、他者を思いやる心と行動力をもった女性たちが集い、それぞれの社会課題を共有し、思いや考えを言葉にしてくれました。実際のところ、気候変動をはじめ現代社会が抱える課題は、複雑で規模も大きく、向き合うのは簡単なことではありません。それでも、参加者の皆さんは互いにしっかりと支え合い、時に涙し、時に笑いの力を借りながら、最後までワークに取り組み続けてくれました。彼女たちと過ごした4日間は私の宝物です。 

● 伊豆井 豪(いずい ごう) 
ロクシタンジャポン株式会社 サステナビリティ推進室 室長/Climate Freskワークショップ・ファシリテーター 


東北を拠点に10年間継続してきたグラスルーツ・アカデミーが今回、多くの初めての挑戦をしました。全国規模での参加者の募集、地域女性だけでなく、次世代を担う若者との対話、そして気候変動の理解を深めるワーク。深く理解することが難しい気候変動を一緒に考え、理解し、自分ごと化し、今何が出来るのかを考え、協議する。明るい未来に向けて深く対話し、共に取り組む大きな一歩を踏み出した研修でした。新しいスタイルで開催されたアカデミーで、気候変動ワークショップのファシリテーターを担当させていただき、とても光栄です。このような素晴らしい機会を提供いただき、ありがとうございました。 

グラスルーツ・アカデミーとは 

地域で次世代を担う人材のための学びとネットワーキングの場。 現場で実践する女性たちが集い、お互いの経験をわかちあい、悩みを相談し、新しい発見や学びを持ち帰るプログラムとして、2015年の第3回国連防災世界会議プレイベント「国際地域女性アカデミー in Tohoku」を皮切りに開始。以降、東北の次世代女性のエンパワーメントを目的に継続して開催し、2017年のシアトル、2018年のロサンゼルス、2022年のバークレーでは海外研修も実施。国内外通算で13回の宿泊研修実績を持つ。 
第12回目(宮城)からは、これまでの参加者が運営メンバーとして参画し、参加者から次の受講生を支える立場へと循環していく“育つ・育てる”仕組みが形を成し始める。 
10周年となる2025年は、“東北から全国へ”学びを広げる初のチャレンジとして奈良・明日香村で開催。 

つながりを取り戻すワークとは

「つながりを取り戻すワーク」は、社会や自分のまわりで起きている問題に向き合うときに、無力感や孤立感で立ちすくんでしまうのではなく、自分と仲間、そして世界とのつながりを再び思い出しながら、行動できる力を育てていくことを目的とした体験型のワーク。 
自然と人の関係性を重視する思想、ものごとを全体として見る考え方、仏教や先住民の教えなど、世界中のさまざまな叡智を背景に生まれました。共通しているのは、私たちはひとりで生きているのではなく、たくさんの関係性の中で支えられ、影響し合って生きているという視点。 
ワークの中心にあるのは、 「どんな現実に価値を置き、どんな未来に向かって生きていくのかを、自分で選ぶことができる」 という考え方です。 
・これまで通りの生き方を続けるのか ・周りの変化にただ飲み込まれてしまうのか ・それとも、自分が望む未来のために小さくても一歩を踏み出すのか ──私たちは選ぶことができます。 
自分の気持ちを見つめ、仲間の言葉に耳を傾け、安心できる場で対話を繰り返すことで、「一人では気づけなかった自分の力」や「未来への手がかり」が立ち上がってくる。 このプロセスを通して、世界の課題に対して無力感を抱くのではなく、仲間とともに希望を育て、行動を起こす力が育まれます。 
このワークを生み出したのは、アメリカの社会活動家ジョアンナ・メイシー。 半世紀以上にわたり、環境・平和・正義の分野で活動し、多くの人々に影響を与えてきました。1970年代以来、このワークは世界中で広がり、社会や環境の変化に向き合う人々の心の支えとなってきました。 


講師:齊藤 由香、伊豆井 豪 
アシスタント:浅野希梨、菅野瑞穂
託児:ギルバート 尚子、託児グループアンティーズ 
撮影:川廷 昌弘
企画・運営:「グラスルーツ・アカデミーin 奈良」実行委員会 
スタッフ:石本 めぐみ、栗林 美知子、佐藤 真凜
募集要項:https://womenseye.net/info/7309