日程:2024年7月19日(金)〜 7月21日(日)
研修地:福島県楢葉(ならは)町
テーマ:Power with(パワーウィズ):自分の中にある軸や周りとつながる
参加者:岩手・宮城・福島で活動する20代〜40代の女性9名
託児の子ども:7名
目的:このプログラムは、実際に各地で活動をしている参加者が互いの実体験から学びあい、地域の境界を超えてつながりを構築し、自らの活動や信念への自信をつけ、一歩一歩、柔軟な変革者へと成長し、地域社会を変えていく力を身につける。
7月19日(金)
13:00 趣旨説明、自己紹介
13:30 ロクシタン・ジャパン中原奈都子さんとWE代表石本めぐみの座談会
14:00-1700 1日目 Who I am :自分の内面に向き合う
7月20日(土)
9:00-16:30 2日目 Power with:痛みの認知とシステム理論
7月21日(日)
9:00-12:00 3日目 I am us, we are I 世界とつながり進む力
14:00 プログラム終了
今回の「グラスルーツ・アカデミー東北2024 in 福島」を開催した場所は、建物の先には太平洋が広がり、週末はキャンプ客で賑わう風光明媚な場所である。しかし、その福島県楢葉町は、2011年の東日本大震災時の福島第一原子力発電所事故により全町避難を余儀なくされた。2015年に避難指示が解除されたが、町民人口は激減している。隣接する富岡町に在住するアカデミー卒業生からこの場所で開催する提案があり、実現することができた。
会場には、地元で花屋を営む女性に用意してもらったフレッシュな花を飾り、カストロ地区のガイド*がプレゼントしてくれた公平な社会を象徴する7色のフラッグを飾った。岩手、宮城、福島から参加者が集まり、もっとも遠い所から参加した人は車で4時間をかけてやってきた。
*2022年に米国カリフォルニア州バークレーで開催したアカデミーで訪れた、サンフランシスコで出会ったガイドさんが、東北で地域の慣習を乗り越え、社会を変えようと奮闘する未来の女性リーダーたちへとプレゼントをしてくれた。
1日目。
ほとんどが初めて出会う参加者の自己紹介から始まった。
まだ表情が固くかしこまった雰囲気は、ファシリテーターのガイドにより少しずつほぐれていった。
今回、それぞれが大切にしてきたモノを持参し、なぜそれを選んだのか、一人ひとりが大切にしているモノの物語を聞いた。
そして、ロクシタン・ジャポン の中原奈都子さんとウィメンズアイの代表石本めぐみによるトークでは、本プログラムを9年間続けてきた背景、そこに関わる人たちの思いを対談形式により参加者に共有した。参加者も話し手も一緒にひとつの輪をつくり、畳の上に座って聞く穏やかな雰囲気のなかで、活動を進め、歩みを止めない二人の熱い思いに触れる時間となった。
プログラムを続ける想いに触れた後、参加者たちも「自身がこれまで何を大切にしてきたか、本当は大切にしたい想いは何か」について、ワークを通して自分たちの内面に向き合った。
2日目。
午前中は、前日の自分の内面に向き合うワークから、「痛み」に触れるワークへとつなげた。つながりを取り戻すワークでは、「痛み」を大切なものとしてとらえている。一般に「痛み=辛い、ネガティブ」なものとして排除するよう考えられがちだが、このワークでは、個人の痛みこそ社会のひずみをあらわす大切なものとして扱う。普段は日常生活の忙しさなどで蓋をし、自分自身でも意識していない「痛み」を掘り起こし言葉にしていく。通常は口にしないことを言語化する作業は容易ではないが、内面からの言葉をしっかりと表に出したところで、午前中を終えた。
午後は「パワーナップ」の後、「システム理論」を座学で学んだ。「システム理論」とは、複雑な問題を解決するために、物事のつながりや相互作用を理解しようとする考え方である。世界で起こっている様々な事象も一人ひとりの中に起こっている痛みもつながり合いが見いだせることを論理的にインプットした。その後「システム・ゲーム」でからだを動かすことでシステム理論を体感した。
3日目。
ずっと雨予報だったが、この日の朝は気持ちのよい青空が広がった。2日間かけてこれまでに自分の中にはなかった視点を感覚的に学び、それぞれの内側と向き合って迎えた最終日は、世界を「新しい目で見て、前に進む」ワークを屋外で行った。
木漏れ日の心地よい林の中、二人ペアになり、自身の五感を使って物事を見るワークをした。その後、屋内に戻り、それぞれの感覚的体験を言葉で共有し、自分が内に持つ「進む」力を意識し、それぞれの場所に戻っても力強く歩みを止めずに進むことを宣言しあい、プログラムを終えた。
1日目の緊張した雰囲気が嘘のように、長年支え合ってきた姉妹のような関係が生まれていた。
今回は半数以上が子連れでやって来た。
プログラムの間は、同じ建物に用意した託児ルームで子ども同士、託児スタッフと過ごしていたが、託児ルームでは、はじける笑顔で心底楽しそうに遊んでいる子どもたちの姿があった。
ランチは、中医学に基づき季節の食材で心と身体を整える和漢膳を提供する「陽なたぼっこ」に3日間お願いした。「お疲れさまです。しっかり食べてパワーアップを」など一人一人に手書きメッセージが添えられ、格別の美味しさに加えて、心もあたたかくなる食事時間だった。お弁当容器も毎回、回収に来てくれたことが大変助かった。
・今回のアカデミーを通じて、自分の内側から湧き上がるエネルギー、願い、あるいはビジョンの力を感じることができました。それは心と体の強張りが取れ、体温が上がるような体験で、まるで温泉です。カチコチに固まったこの息苦しい世界で、みんなが大きく呼吸ができるよう、わたし自身と社会に対して、メッセージを発していこう、アクションを起こしていこうと思いを新たにしました。
・感謝することも、痛みを知ることからもなんとなく目を逸らして生活していたことに気づきました。思い切って口に出すことは出来ても、受け入れて自分の中で咀嚼して納得させる方が難しいかもしれません。でもそれも修行だなと今回の研修で学んだことの一つです。
・由香さんの包容力のあるファシリとワークのおかげで、臆せず自己開示して取り組めたと思います。かけがえのない経験をありがとうございました。
・今まで受けたどの研修よりも(知識を詰め込むよりも)私にとっては有意義な時間でした。
・世界の痛みは自分の痛み、世界を癒すことは自分を癒すこと、(逆も同じ)という価値観に立ったとき、ニュースなどから日々飛び込んでくる痛みの情報を、自分のなかでどのように受け止めたら良いのかにまだ戸惑いがあります。
・これほどに温かいワークショップには参加したことがありません。
・(ワークの一つである)セブンスジェネレーションでは、自分自身の行動や生き方を振り返ることになりましたし、最後に大きな勇氣を得ることができました。
今年もまた日本の素晴らしい女性たちと3日間を共にできたことをとても幸せに思います。多様なバックグラウンドを持つ9名の女性たちでしたが、その差異よりも印象深く私の心に残っているのは、彼女たちが共通してもっていた「しなやかな強さ」と「より良い未来を描く力」です。
グラスルーツ・アカデミーのグラスルーツとは、草の根を意味しています。草は、折れない強さよりも、タフな生命力を強みとします。切られたり、踏まれたりしても、根が残っていれば再生し、再び元気に成長してゆくのです。また荒廃した土地や瓦礫の隙間からでも芽を出し、空に向かって伸びてゆく強い生命力を持つことも特徴です。そして何よりも、草は大地を守っています。草の根は土壌をホールドし、微生物を養い、栄養豊富な地下世界を作り出すことで、地上の世界もまた豊かにしているのです。
今回出会った女性たちは、誰もがこの「草」の強さと力を思わせます。彼女たちの根が社会の傷を癒やし、緑豊かな未来を作ってゆくのを想像すると心が躍ります。彼女たちの顔を思い浮かべれば、それが夢物語ではなく現実の物語であることが感じられます。
今、私は、彼女たちとの再会を心から待ち望んでいます。
そして願わくば…これまでのグラスルーツ・アカデミーの参加者とも!
そうして、みんなで集まって、より大きな緑の草の絨毯を社会に広げていくことを夢見ています。
プログラムの背骨となっている「つながりを取り戻すワーク」は、体験することで大きな気付きが得られるものです。参加者からの声を振り返ってみてみると、各々が自分の内面に向き合い、日々課題と感じている社会とのつながりにも目を向ける機会とした様子が見て取れました。
グラスルーツ・アカデミーは、小人数で開催されますが、密度の濃いコミュニティが形成されていきます。そして回を重ねるごとに様々な分野で地域社会をより良くしようと活動する女性たちが確かにつながりあって、力強く進んでいく力を感じます。
報告者:浅野希梨(グラスルーツ・アカデミー東北アルムナイ、
「つながりを取り戻すワーク」ファシリテーター講座修了生)
地域で次世代を担う女性のための学びとネットワーキングの場。宮城・岩手・福島から地域のために活動している人が集まり、お互いの経験をわかちあい、悩みを相談し、新しい発見や学びを 持ち帰る。グラスルーツ・アカデミー東北のスタートは、2015 年の第3回国連防災世界会議のプレイベント「国際地域⼥性アカデミー in Tohoku」を皮切りに、東北の次世代⼥性のエンパワーメントを目的として開催してきた。2017年に米国シアトル、2018年には米国ロサンゼルス、2022年には米国バークレーでアカデミー海外研修も実施。今回は国内・海外通算で13回目となる。第12回目(宮城)からは、過去の参加者が運営メンバーとして開催している。
「つながりを取り戻すワーク」は、私たち一人ひとりの内的な変容だけでなく、社会全体の変容を可能にする力を養うことを目的とした体験的ワークである。ディープエコロジー、システム思考、ガイア理論、スピリチュアルな伝統(特に仏教や先住民の教え)などの叡智に基づいている。これらに共通しているのは、現実を非線形的にとらえる視点であり、その視点からは、自己組織システムの中にある相互依存の働きが見えてくる。それが、関係性の中から生まれる力を解き放つ鍵となる。加えて、ワークの中核には、「自己反省的意識とは、選択する能力である」という、システム思考にも仏教の教えにもある認識が据えられている。いかなる限界が私たちの人生に課されていようと、私たちはどの現実のバージョンあるいは、世界についてのストーリーに価値を置き、力を尽くしたいかを選択する自由を与えられている。これまで通りの生き方に足並みを揃えるのか、生命システムを破綻させることに加わるのか、それとも生命維持型社会の想像に取り組むのかを、わたしたちは選ぶことができる。1970年代後半に提供されて以来、世界中の何千という人びとが、このワークを通して、社会や環境の急速な悪化にもかかわらず、団結し、勇気を持って行動する方法を学んできた。
このワークを生み出したジョアンナ・メイシーは、仏教・一般システム理論・ディープエコロジーといった分野を深く掘り下げた研究活動をおこない、またそれらを軸に社会活動を続けてきた。これまで多くの人びとが彼女に学び、影響を受けている。平和、正義、環境など多岐にわたる彼女の社会活動の歴史は 50 年 以上におよび、アメリカの社会/環境運動史上もっとも偉大な活動家の一人としてその名が挙げられている。
アクティビスト・翻訳家・通訳・ワークショップ・ファシリテーター。現在は日本 およびアメリカで平和・環境・社会正義運動に積極的に関わるとともに、関連書籍 および映像の日本語翻訳を行う。2011 年より米国の仏教学者・環境哲学者であり アクティビストのジョアンナ・メイシーに師事し、2014 年以降彼⼥が生んだ 「つ ながりを取り戻すワーク」のワークショップを日本で開催。社会や世界の痛みに対 する気づきと行動をうながし、新しい世界観や価値観にもとづいたコミュニティ作りを目指している。米国カリフォルニア州バークレーに在住。翻訳書に『カミン グ・バック・トゥ・ライフ:生命への回帰』(日本能率協会マネジメントセンター)、他。映像翻訳に『ジ ョアンナ・メイシー&グレート・ターニング』『プラネタリー』『ジャーニー・オブ・ザ・ユニバー ス』。
講師:齊藤由香
託児:一般社団法人Wendy
撮影:蒔田志保
企画・運営:「グラスルーツ・アカデミーin 福島」有志メンバ ー
後援・協力:ロクシタン・ジャポン株式会社
スタッフ:石本めぐみ、栗林美知子
募集要項:グラスルーツ・アカデミー東北 2024 in 福島 募集要項
環境配慮:ウォーターボトルやマイカップを各自持参。食器は土に還る100%天然素材EcoSouLifeを主催者が常備。飲食物は開催地で可能な限り地元素材を調達する。車移動は可能な限り乗り合わせを参加者間で行う。