DEN SAKE BREWERY
[訪問記07]デン・サケ・ブルワリー

アメリカ文化を一方的に受け取るだけだったのが、こちらから発信することで、イーブンな気持ちになれた

迫義弘さん(ヨシさん)が2017年に設立したデン・サケ・ブルワリーは、カリフォルニア州オークランドで最初の小さな酒蔵。日本の伝統的な醸造方法とカリフォルニアの気候風土に適応した独自の技術を使用して、こだわりの純米酒を醸造している。湧き上がる意欲とともに、楽しみながらつくるDIY精神。スタートアップが生まれてくる西海岸カルチャーの一端も覗くことができた。

報告:千葉可奈子

概要

場所 :DEN SAKE BREWERY(2311 Magnolia St, Oakland)

デン・サケ・ブルワリー

内容

1:スタートアップが集まったエリア

2:酒造りの現場を見学

3:ヨシさんインタビュー

4:報告者の感想

5:みんなの感想から

1:スタートアップが集まったエリア

オークランドの倉庫街の一角、頑丈な鉄の扉の向こうにある工業エリア。このエリアのオーナーの意図で、製材所を中心に、家具のファクトリー、タイニーハウスのポップアップ、飲食店など、お互いの近い関係が相乗効果を生むようなスタートアップが呼び寄せられるように集まっている。入り口の蕎麦屋は本格的な味が評判を呼び、行列ができる人気店。

DEN SAKE BREWERYもこの一角に醸造所を構えている。

2:酒造りの現場を見学

・日本酒づくりには、寒さが必要なので、エアコンを活用して、コンテナの中に寒い部屋を意図的に作っている。

・エリアにいる同じようなスタートアップのメンバーに器具を制作してもらうなど助けてもらいながら、自分たちで設備を整えた。

・米40石分で500ml1700ケースというかなり小ロットで製造している(日本だと300石でも小規模酒造)

・水は一切濾過などしておらず、オークランドの水をそのまま利用している。オークランドの水はシエラネバダ山脈の雪解け水が水源でかなりの軟水だが、タンクにどれくらい貯蔵されるかで硬水にもなり、季節や時期でかなり水は変化する

・米は、サクラメントヴァレーで野鳥の環境保護活動をしている農家からのみ買っているシングルオリジン。酒のラベルからもどこの農家の米なのかは分かるようになっている。酒米ではなく、寿司にも使える米を使用。

・麹菌は日本から輸入している。米を削る量を増やせば大吟醸になるが、大吟醸が全てだと思ってはおらず、「食事による」し、今は麹菌が発達しているので、純米酒を作っている

・カルフォルニアは、地中海系の油の強い味の強い料理が多いので、酸の強い「味を切る」ような日本酒を目指している。自分がワインが好きなこともあって、白ワイン寄りの酒になるといいなと思っている。特別な時に飲むお酒ではなく、普段にカジュアルなお酒として選んでもらえることが目標。

3:ヨシさんインタビュー

酒造りを始めたわけ

・元々ミュージシャン。バンドをいくつか掛け持ちしていたが、サイドジョブとしてレストランで働いていた。その経験から、日本酒やワインを取り扱うレストランで店長をしていたので、ソムリエやバイヤーもやっていた。その時に日本人だから日本酒の話をとても聞かれるようになって、自分が日本酒について知らなかったことに気付かされた。今まではアメリカの文化を一方的に受け取るだけだったのが、こちらから日本文化を発信することで、イーブンな気持ちになれた。最初は、学びながら、友達の家の裏庭にコンテナを置いて作り始めてみた。そこから、日本酒の試作を交流会で出会った今のエリアのオーナーにプレゼンしたら、ここに入っていいよということになった。仕込みが始まると3か月間休めないが、本気でやめたいと思った事は無い。

ビジネスとして立ち上げる

・起業支援などは一切受けておらず、投資家を入れずにやってきた。なので、今まではいかに低予算でやるかというのがあったが、今後スケールアップを考えると、投資家を入れないといけないと思っている。お金を持っている人はたくさんいるので、大事なのは「良い人」と出会うこと。ただ、人件費や地価を考えると、とても高くて他に移るのは大変だなと思う

・麹という生き物を扱う中で、自分だけ肩肘張って頑張ったって上手くいかないということがわかった。まずは、菌の特性をよく知らないといけない。じゃないと、どうやったらどんな味が出るかは分からない。

4:報告者の感想

起業支援を全く受けずに、起業されたというのが印象的でした。コミュニティ(飲食店時代の繋がりや、パーティーでの出会い)がたくさんあるからこそ、なんだろうと思いました。また起業家支援施設が自治体運営ではなく民間(というか土地持っている人が投資目的でそういうふうに運用している)のは、日本とアメリカの大きな違いだと思います。一方で、スケールアップしようとすると、人件費の高さや地価の高さを課題とされていて、その辺りは一緒だなと思いました。

5:みんなの感想から

・あまりの規模の小ささに驚きました。そして、無いものは作る! の精神が素晴らしかったし、きっと楽しいんだろうなと伝わってきました。作り手が苦しみながらも、湧き上がる意欲と共に楽しみながらつくるお酒が美味しくないはずがない。

・気候や風土が違うアメリカで日本酒をつくる人が増えているというのも面白い話でした。田んぼやお米そのものも見てみたい! と、好奇心が止まらなくなる場所でした。また飲みたいです。

・アメリカが好きでアメリカでのサクセスを頑張っておられる。ファンが沢山いて、ご縁を大切にしながら、選択肢をいくつも持っている感じがした。日本のもので勝負する。誇りに思います。

・限られた資源・資金の中で、自分で道具を創作したり工夫を重ねて、事業を始められていた。制限がある中でも、できる範囲でたくさん工夫しながら事業をしている姿が印象的で、「できるんだ」という勇気をもらった。

・材料や道具など何かが足りないように感じても、自分で作ってしまえばいいのだ! とパワーを感じました。

・美味しかった。そして、酒造りというと「伝統」「代々の○○」「世襲制」のように大きな壁が立ちはだかることなどひょいと飛び越えて、軽やかにトレーラーハウスの一角ですごく一生懸命に楽しそうに日本酒を作っている姿が嬉しかった。そして、それを帰国後、酒造りに関わる友人に伝えたところ、「日本以外でお酒を造る可能性があるって嬉しい」と喜んでもらえた。頂いた酒粕石鹸がまた嬉しかった。

・これまではアメリカの文化を受ける側だったけれど、日本の文化を提供する側になったことがやりがいにつながっているという言葉。食事にワインを飲むアメリカ人が、日本酒を選ぶようになってほしいという夢を目指している姿が、まさに職人でした。
・やっぱり「儲けたい」ではなくて、自分の目指したい夢に向かうこと+他者に喜んでもらうことが、結果、持続可能なビジネスになっていくのかな〜(そうであって欲しい)と思った。

・「ソムリエだったが、日本酒について聞かれるうちに興味をもち、酒造をつくることになった」という自然の流れにのりながら決断をしてきたというお話にとても共感しました。理想の味に向けて探究しつづけながら、次はティスティングルームを作りたい、当たり前のように日本酒を飲んでほしいと夢を語られている姿が印象的です。

・日本酒の消費量がアメリカでは上がっている(日本とは逆!)というニーズを汲み取り、ワインが好きな人に日本酒を知ってもらいたいというターゲットを明確にしたアプローチも的を射ている感じでした。またパートナーの支えにより、ハードな仕事も大きなビジョンも超えていけることは何事もサポートしてくれる人がいることの重要性を感じました。

・自分の能力を発揮できる領域を知ること、苦手なことや相手が得意なことはお願いする関係性がパートナーシップにおいても組織においても大切であることを学びました。次のステップのために投資家を探すという言葉を聴き、自分の思考範囲を狭めずに様々な選択肢へ意識を向ける感覚も見習いたいと思います。 ・自分が満足できる日本酒を造るんだ! と夢を持って邁進しているヨシさんを支えビジネス面をサポートしている奥さんがTech企業の幹部というのが、サンフランシスコっぽく面白かった。と同時に、日本でよくある、女性側が結婚相手に求める条件のような収入が〇万円くらいで……というのは米国ではあまりないのだろうと感じた。逆に日本で女性が(一家を養うほど)稼げていないからパートナーを求めるというのも感じつつ……。

・私自身も自分一人の収入で満足に生活ができ、なんなら子どもの教育費等も含めて全ての生活費を養えるくらいの経済力をもっていたいと思う。それと同時に、ヨシさんを見ていて、私もビジョンを描いて邁進していく過程でそれを事業に落とし込んで、家でご飯を作って待っていてくれるパートナーがいたら良いのにと思ったが、そのような展開は今の所期待できないので、はやく前に進める力をつけたいと思う。